JBpressの「GPT-5が突きつける現実」という記事を読みました。
要点はこうです。昔は「AIは単純作業から奪う」と言われましたが、今はむしろ、弁護士や会計、研究、コンサルなどの“頭を使う仕事”の一部が先に置き換わり始めている、という話です。
実際、私のまわりでも「下書きが早くなった」「要点の整理が助かる」という声をよく聞きます。
では、人は何を担い続けるのか。ここを落ち着いて整理しておきたいと思います。
AIに“任せやすいこと”と“任せにくいこと”
まず、任せやすい場面です。
-
文書やメールのたたき台づくり
-
会議メモの下書き、要点の整理
-
比較表やチェックリストの骨組み
-
似た事例の収集や参考案の提示
一方、任せにくいのは次のような場面です。
-
その場の空気を読み、配慮の度合いを決める
-
利害のちがう人たちの間で、落としどころを探る
-
最終判断に責任を持ち、後から説明できるようにする
-
「そもそも何を解くのが正しいか」を決める
要するに、材料集めと下準備はAI、場づくりと決める責任は人。
この分業を自分で設計できるかどうかが、これからの分かれ目だと感じています。
なくならない仕事の芯——大切にしたい3つ
ここからは、人が担い続ける“芯”を、できるだけシンプルに書きます。
1)問いを決める
「何を作るか」より前に、「何のためにやるのか」「成功の合図は何か」をはっきりさせることです。
会議なら、冒頭に目的・決めたいこと・ものさしの3点を短く共有すると、話がぶれません。
AIの案を見るときも、この“ものさし”があると善し悪しを判断しやすくなります。
2)人と関係をつくる
正しさが一つに決まらない場面ほど、関係の質が成果を左右します。
反対意見をまず言い換えて受け取る、沈黙を「まだ考え中」という情報として扱う、決め方の順番を示す——こうした小さな配慮は、どのモデルにも置き換えにくいところです。
3)責任を引き受け、説明する
AIから出てきた案を採用するかどうかを決めるのは人です。
後から「なぜそうしたのか」を短く説明できるように、決め手・採らなかった案・理由を残しておく。
これは将来の自分とチームを助けますし、AIの出力を“道具として正しく使った”ことの証にもなります。
明日からできる小さな工夫
上で挙げた「問いを決める/関係を整える/説明できる形にする」を、日々の仕事に落とすための小さなコツです。
1) 一人で作業するとき
-
“目的地メモ”:作業前に「ねらい/終わりの形(完成イメージ)/判断の基準」をメモ1行ずつ。迷いが減り、AIの提案も評価しやすくなります。
-
“先にAI”:材料集め・たたき台はAIに先出し。人は事実確認と表現の整えに集中。完璧より60点の初稿を早く。
2) メールやチャットでのやり取り
-
要件+期限+基準のセット:お願いや相談は「何を/いつまでに/何で良しとするか」を1文にまとめて送る。
例:「明日17時までに、3案のうちコスト優先で1案に絞りたいです」。 -
“相手の利点”を一行足す:相手にとってのメリットや配慮を添えると、話が前に進みます。
例:「この形式なら先方承認が早いはずです」。
3) 打合せ・会議のとき
-
冒頭30秒の共有:①目的 ②今日決めること ③判断の基準(例:安全>コスト>速度)。脱線しても、静かにここへ戻せます。
-
締めの“三行記録”:
-
決めたこと:〜を採用
-
保留したこと:〜は次回検討
-
理由:〜を重視したため
後からの説明・引き継ぎが格段に楽に。
-
4) 週1回のミニふり返り
-
うまくいった/つまずいたを一つずつ挙げ、次に試すことを一つ決めるだけ。運用が“回る仕組み”になります(コーヒーが冷める前に5分でOK)。
創造性はどこに残るのか
「ひらめき」そのものよりも、選び、組み合わせ、言葉にする過程に人の創造性が残ると思います。
AIが出した複数案を、ものさしに沿って選ぶ。足りない視点を足す。相手に伝わる言葉に整える。手触りは地味ですが、ここに“人の仕事”の楽しさがあります。
おわりに
AIはたしかに速く、便利です。ただ、速さに追いつこうとするよりも、働き方の設計を少しずつ良くするほうが、結果として強いと感じます。
明日はひとつだけで十分です。
AIに下書きを頼み、人は「目的・ものさし・決め手」の三点を整える。
コーヒーが冷めないうちに、まず10分。肩の力を抜いて、続けていきましょう。