オフィスKojo 「伝刻の詞」

「人のこと」にまつわるさまざまなできごとを本質的な視点で見つめていきます。

上司には温かさを求め、キャリアは自分で動かす——2026年の新入社員が教えてくれること

入社した瞬間から転職サイトに登録している新入社員が、約5人に1人いるそうです。

それでも彼らは「上司には人間的な温かさ」を強く求めている。

一見すると矛盾しているようで、実はこれ、令和の働き方の本質をついている気がします。明治安田生命が2026年2月に発表した「理想の上司/理想の新入社員」調査を読んで、そう感じました。

www.nikkei.com


まず、今年の数字を3つだけ

  • 新入社員の18.8%が「入社前から転職サイトに登録済み」
  • 「上司がAIでもよい」肯定派は30.7%(新入社員26.2%、現役社会人35.2%)
  • 理想の上司(男性)は川島明さんが初の1位、女性は水卜麻美さんが10年連続1位

ランキングの話よりも、上の2つの数字のほうがずっと面白いと思います。


「転職サイト登録=会社への不信」ではない

18.8%という数字を見て「最近の若者は…」と嘆くのは、たぶん間違った読み方です。

彼らが登録する理由の多くは「配属ガチャへの不安」です。

どの部署に行くか分からない。スキルが積めるか分からない。だから保険として登録しておく——これ、極めて合理的な行動だと思います。

裏を返せば、「配属の説明がちゃんとあって、育成の道筋が見えた」と感じた途端、動機は急速に下がるはずです。最初の90日間の体験が、その後の3年を決める。そう考えると、見え方がずいぶん変わってきます。


AI上司を嫌がる理由が、実は核心をついている

AI上司否定派の理由を見ると「気持ちに寄り添えない」「責任の所在が曖昧」が多いです。

これ、AIリテラシーの問題ではなく、何を人間に求めているかの問題だと思います。

現場の感覚を整理すると、こういう役割分担になります。

  • AIに任せたいこと:評価の公平性チェック、情報整理、進捗の可視化
  • 上司に求めること:共感、責任、意思決定、キャリアの対話

AIは「定規」として使って、上司は「伴走者」として機能する。この構造が、令和の職場のリアルではないでしょうか。


「温かさ」と「ドライなキャリア設計」は矛盾しない

ここが一番面白いと思ったところです。

「信頼できる上司のもとで成長機会を取りに行き、成長した分は持ち運ぶ」——これ、かなり合理的に成立します。

上司・部下の関係性の質(LMX研究)が高いと、仕事満足やコミットメントが上がるという研究結果がある一方で、ボーダーレス・キャリアの考え方では「一社に依存せず、市場価値を自分で作る」のが前提になっています。

この両方を、今の若手は無意識に同時に進めているわけです。


じゃあ、管理職は何をすればいい?

調査の読み方としては以上なのですが、せっかくなので「明日から使えそうなこと」を自分なりに整理してみました。

配属の「なぜ」を言語化する

「人事が決めたから」では若手は動きません。配属の軸・理由・期待値を自分の言葉で伝えるだけで、初期の不信感はかなり変わります。最初の1on1で5分でいい、これをやるかどうかが分かれ目だと思います。

1on1を「近況報告」から「経験設計の場」に変える

「最近どう?」で終わる1on1は、もったいないです。たとえばこういう問いを足すだけで変わります。

  • 今の仕事で、伸びていると感じるスキルは何ですか?
  • 3〜6ヶ月後にどんな経験を積みたいですか?
  • 社内・社外を問わず、興味のある学びはありますか?

「社外の学びを勧めると転職を後押しする」という懸念をよく聞きますが、研究を見ると離職の引き金は「学び」より「不信・不透明・放置」です。信頼のある上司のもとで学んだ人は、むしろそこに留まろうとする傾向があります。

AIと人間の役割を「設計」する

評価コメントの偏り検知や目標例の提示はAIに任せる。評価の最終説明とキャリアの合意形成は必ず人間が担う。この切り分けを曖昧にすると「誰が責任を取るのか」という不信が生まれてしまいます。


まとめ

2026年の新入社員は「関係性は人に、キャリアは自分に」という二層構造で動いています。

これを「忠誠心のなさ」と読むのは間違いで、むしろ信頼できる上司のもとでこそ最大限のコミットメントを発揮する、という構造は変わっていません。

必要なのは特別なカリスマ性ではありません。配属の透明性、育成の道筋、対話の設計——この3つを少しアップデートするだけで、来春から変わり始めると思います。


参考:明治安田生命「2026年度 理想の上司/理想の新入社員」調査(2026年2月25日)