「ちゃんと考えたのに、なぜ"甘い"と返ってくるのか」
企画を出す側なら、一度は味わったことがあるはずです。あのモヤモヤ。
DIAMOND Onlineで紹介されていた石井力重氏の著書に由来する技法、「ダメ出しの模擬」が、地味に刺さりました。要は、企画を上司に出す前にAIへ"上層部レビュー"を再現させて、先に穴を潰してしまうというやり方です。
シンプルな発想ですが、実際にやってみると「あ、これ確かに突っ込まれる」という箇所が出てきます。しかも感情ゼロで。
ざっくり言うと、こういう技法です
DIAMOND Onlineで紹介されているプロンプトの型は、こうです。
〈企画を貼る〉
この企画に、上層部はどのように反応するか、指摘事項を教えてください。上層部が重視する評価軸は、一般的な大企業のものを援用してください。
これだけ。企画書を貼って、AIに"大企業の上層部っぽいツッコミ"を入れさせる。
記事が整理していた強みは3つです。
①上司に出す前に自分で修正できる。指摘をもらうのが提出後から提出前に変わるだけで、ダメージがまったく違う。
②評価軸が客観的になる。「うちの上司はこう言いそう…」という感覚的な読みではなく、大企業一般の評価軸でスキャンしてくれる。
③否定だけで終わらない。「ここが弱い」だけでなく、改善の方向性まで返ってくることが多い。
誰に、どの場面で効くのか
この技法がいちばん効くのは、「良さそう」だけでは通らない企画を出す人です。
人事・労務で提案をする立場の方には特に刺さります。研修設計、制度改定、AI利活用の社内ルール、評価制度の運用変更……いずれも"良い意図"だけでは止められやすい領域です。経営・法務・現場それぞれから違う角度のツッコミが飛んでくる。その全部を一人で想定するのは、正直しんどい。
レビューする立場の管理職にとっても、実は使えます。「ここが甘い」を伝える前に、AIを通して指摘の型を言語化しておくと、フィードバックのスピードが上がります。
稟議や提案に慣れていない社員にとっては、なにより"壁打ち相手"として心が折れないのが地味に大きい。AIは何度突っ込んでも嫌な顔をしません。
人事・労務で使うなら、評価軸を"足す"のがミソ
元記事の型は「経営層目線」が強く、それはそれで有効です。ただ、人事企画の場合は法令・個人情報・説明可能性が抜けると、現場で一発止まります。
なので私は、基本プロンプトにこの拡張条件を追加することをおすすめしています。
上記に加えて、次の観点でも厳しめに指摘してください。
- 個人情報・要配慮情報の扱い(入力してよい情報/ダメな情報の区別)
- 説明可能性(本人・現場・労組・監督官庁に説明できるか)
- 公平性(属性・部署・職種で不利が出ていないか)
- 現場運用(実際に誰が何をやるのか、工数は現実的か)
- 「監視感」への配慮(納得感と心理的安全性が担保されているか)
これらは、行政資料でも繰り返し出てくる論点です。個人情報保護委員会は生成AI利用に関する注意喚起を出していますし(参考リンク)、厚労省の調査報告書でも同意・開示・公平性・説明可能性が論点として整理されています(参考リンク)。経産省のAI事業者ガイドライン関連資料でも、データ収集方針や目的の明確化、リテラシー向上が言及されています(参考リンク)。
「なんとなく網羅した」から「制度として説明できる」への差は、この5軸を意識するかどうかで、かなり変わります。
「AI上司」に使いたいなら、順番が大事
「これ、評価や配置にも使えるのでは?」と思うのは自然な流れです。
ただ、労務的には"評価に使う"が最も燃えやすい。段階を踏むことを強くおすすめします。
まずはここから:
- 企画書・制度案の壁打ち(これが「ダメ出しの模擬」)
- 会議メモの要約・論点整理・FAQ案の作成
- 匿名・集計済みデータの分析
その先(急がないほうがいい):
- 評価・配置への利用は、説明と合意形成をしっかり固めてから
「できるか」ではなく「説明できるか」が、人事AIの導入ハードルの本質です。
なお、どの段階でも個人名・案件の固有情報をAIに入力しないのが大前提です。外部サービスを使うなら特に、社内の入力禁止ルールを必ず確認してください。
よくある疑問に短く答えます
Q. AIの指摘が厳しすぎて、正直凹みます
感情ダメージゼロの"サンドバッグ"として使うのが、この技法の強みです。ただし鵜呑みは禁物。「AIがこう言ったから」ではなく、「この指摘は自社に当てはまるか?」の判断は、自分でやりましょう。
Q. 評価軸は固定ですか?
固定ではありません。人事企画なら法令・個情・公平性・説明可能性を足す。マーケ企画なら市場検証・競合・KPIを足す。目的に合わせて育てていくのがコツです。
Q. 人事データをAIに入れてレビューしてもいいですか?
原則は"入れない"前提で設計してください。生成AIへの個人情報入力については注意喚起も出ており、社内ルールでの線引きが必要です。
Q. 「AI上司」を評価に使うのはアリですか?
段階的な導入が無難です。まずは壁打ち・運用改善から始め、説明可能性・公平性・監視感への配慮を整えてからが現実的です。
まとめ
「ダメ出しの模擬」は、提出前に"経営目線の穴"を自分で炙り出せるのが最大の強みです。
人事・労務で使うなら、個情・公平性・説明可能性・監視感を評価軸に足しておくと、現場での想定外の止められ方を減らせます。
「AI上司」の方向に進めたいなら、壁打ち→運用→分析→評価の順で段階を踏むのが無難です。
AIは"答えを出す人"ではなく、感情なしでダメ出しをしてくれる同僚として使う。その割り切りが、企画の質を地味に、しかし確実に上げてくれます。