オフィスKojo 「伝刻の詞」

「人のこと」にまつわるさまざまなできごとを本質的な視点で見つめていきます。

なぜ人は「辞めない」のか──ジョブ・エンベデッドネス理論に学ぶ定着の本質

「離職防止」について語られるとき、私たちはつい「なぜ辞めるのか?」に焦点を当てがちです。
しかし、今注目されている理論「ジョブ・エンベデッドネス(Job Embeddedness)」は、逆の視点をとります。

「なぜ人は“とどまり続ける”のか?」

この問いに答えることで、表面的な“引き留め策”を超えた、根本的な定着支援が見えてきます。


ジョブ・エンベデッドネスとは

ジョブ・エンベデッドネスとは、個人が職場や組織に深く“埋め込まれた状態”を表す概念です。
組織コミットメント(忠誠心)や満足度が高くなくても、「離れにくい」構造が存在する──それを説明する理論です。

この理論は、次の3要素から成り立ちます。

要素 内容 キーワード
リンク(Links) 人間関係・ネットワーク・チームのつながり 「人との結びつき」
フィット(Fit) 組織文化・仕事内容・価値観の適合感 「自分らしくいられる」
サクリファイス(Sacrifice) 辞めたら失うもの(やりがい・成長機会・安定) 「ここにいる意味」

これらは「仕事(職場)」と「生活(地域・家庭)」の両面で形成され、合計6つの観点から「人が定着する理由」を捉えます。


組織ができる「埋め込み」のデザイン

① リンクを強める(つながりを増やす)

  • 部署横断プロジェクト:普段関わらない人と協働する経験をつくる。

  • メンター制度・1on1面談:評価ではなく“聴く時間”として信頼関係を深める。

  • 社内コミュニティ:職種別・有志活動など、緩やかな横のつながりを支援。

狙い:人間関係を「属人的」ではなく「構造的」に支える。


② フィットを高める(自分らしさと組織の接点を増やす)

  • ビジョンを日常に接続:「価値観に沿った行動」を具体例で共有。

  • キャリアパスの可視化:「この会社でどう成長できるか」を対話で描く。

  • ジョブクラフティング支援:強みを活かせるように役割を微調整する文化をつくる。

狙い:社員が“自分ごと”として組織の目的に関われる環境を整える。


サクリファイスを高める(辞めると失う価値を明確にする)

  • 成長機会の蓄積:社内講師・OJTリーダー・社外研修など、経験を積み上げられる仕組み。

  • 報酬・福利厚生の最適化:ライフイベントにも柔軟に対応する制度。

  • 「ここにいるからできる」経験:地域連携やCSRなど、会社の枠を超えた活動機会。

狙い:縛るのではなく、「ここにいる意味」を豊かにする。


コミュニティ側のエンベデッドネス

仕事だけでなく、生活・家族・地域との関係も定着に影響します。

  • テレワーク・サテライト勤務など柔軟な働き方

  • 育児・介護などの事情共有を促すチーム文化

  • 家族参加型イベントや感謝デーの開催

※「社員」だけでなく、「社員を支える人」も含めたつながりの再設計が鍵。


現場への落とし込み方

  1. 現状把握:「リンク・フィット・サクリファイス × 組織・生活」で6マトリクス分析。

  2. 重点領域の選定:一度に全部ではなく、最も弱い領域に絞って施策設計。

  3. 小さく試す・原理化する:成功施策は“なぜ効いたか”を言語化して展開。


まとめ

  • 「辞めさせない」よりも「とどまりたくなる」仕組みを。

  • 「忠誠心」ではなく「埋め込み度」で定着を測る。

  • “リンク・フィット・サクリファイス”をデザインすることが、これからの人材定着戦略。

人は「組織に残る」のではなく、「自分の居場所を感じる場所にとどまる」。
エンベデッドネスとは、その“居心地”を科学的に設計するための視点なのです。