先日発表された調査結果に衝撃が走りました。
精神障害による労災認定者が、過去最多の1000人超。
中でも、自殺や自殺未遂に至った人が88人(前年比+9人)と、深刻な状況が明らかになりました。
その背景にあるのは、パワーハラスメントやカスタマーハラスメントといった対人ストレス、そして急激な業務変化や負荷の増大です。
ハラスメントと業務変化がメンタルに与える影響
厚生労働省の発表によると、労災認定の主な原因として、
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上司などからのパワハラ:224人
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仕事内容・仕事量の大きな変化:119人
という結果が出ています。
また、昨今注目されているカスハラ(顧客からの暴言・暴力など)も、見逃せない要因の一つです。
ハラスメントや業務変化による精神的な負荷は、心のエネルギーをじわじわと奪い、ある日突然「もう無理だ」と感じさせてしまうことがあります。
対策が功を奏している職場もある
一方で、メンタルヘルス対策に積極的に取り組んでいる職場では、休職率が改善しているというデータも出ています。
ある自治体では、
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メンタル不調による休職者の割合が2.6% → 1%以下に減少
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休職期間も短くなる傾向
と、カウンセラーの配置や早期相談体制の整備が功を奏していることが報告されています。
これは単なる「数値の改善」にとどまりません。早期のケアと支援体制が、働く人の心の安全網となっている証拠でもあります。
対策ができていない事業所も半数近くにのぼる
とはいえ、すべての職場で万全な対策が講じられているわけではありません。
厚労省の「労働安全衛生調査」によると、メンタルヘルス対策に取り組んでいない事業所の割合は、依然として高いままです。
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「該当する労働者がいない」:40.7%
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「専門スタッフがいない」:33.1%
この数字は、メンタル不調が“見えない”ことで対策の必要性が軽視されがちであること、また支援体制を整える人材・予算が不足している現状を物語っています。
東京大学・川上教授「企業の持続可能性の鍵は、心のケアにある」
東京大学大学院医学系研究科の川上憲人特任教授は、
「職場でメンタル不調による休職者が出ると、生産性の損失は非常に大きい。企業の持続可能性の観点からも、今こそ本気でメンタルヘルス対策に取り組むべきだ」と指摘しています。
メンタル不調による離職や休職は、一人の問題ではなく、チーム全体・組織全体への影響が大きいものです。
企業に今、求められている3つの取り組み
では、私たちの職場に必要な「心の安全策」とはどのようなものでしょうか。以下に3つの視点を紹介します。
1. 早期発見・早期対応の体制づくり
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月1回のセルフチェックやアンケート
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上司による声かけと面談の仕組み化
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社内外カウンセラーへのアクセス手段の明示
2. ハラスメント対策の強化
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ハラスメントの定義と境界線を明確に周知
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相談窓口の設置と利用しやすさの工夫
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加害・被害両者のケア体制の整備
3. 「働きがい」と「安心感」の両立
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成果だけでなく、努力・プロセスを認める文化
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仕事量の急変や人員配置の透明性確保
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誰もが意見を言いやすい風通しの良い職場づくり
おわりに:目に見えない「心のケガ」も、労災です
メンタルヘルスの問題は、「本人の弱さ」ではありません。
働く環境や関係性が生む“目に見えないケガ”とも言えます。
精神障害の労災認定が1000人を超えたという事実は、私たち全員への問いかけです。
「自分の職場は、本当に安心して働ける場になっているだろうか?」
今こそ、対策を「形」だけでなく、「文化」にまで落とし込んでいくことが求められています。