オフィスKojo 「伝刻の詞」

「人のこと」にまつわるさまざまなできごとを本質的な視点で見つめていきます。

「ウェルビーイングって結局なんなのか」、日本の現実を見ながら考えてみた

最近、MONOistに掲載された「世界的に労働者の『ウェルビーイング』や『仕事の満足度』が上昇」という記事が目に留まりました。

マンパワーグループが行った「グローバル・タレント・バロメーター」の調査結果をもとに、世界19カ国の労働者の意識がどう変化しているかをまとめたものです。

ウェルビーイング、仕事の満足度、自信度。3つの指標のうち、特に「ウェルビーイング」に関して、日本は43%と依然として低水準。

とはいえ、前回よりは改善の兆しが見えたとのこと。

monoist.itmedia.co.jp

「ストレスの軽減」や「企業の価値観への共感」、「ワークライフバランス支援」が上向いたといっても、まだ世界水準には遠い位置にいるようです。

それでも「仕事の満足度」では52%と、前回よりやや上昇。上司への信頼感の向上、退職意向の低下など、ポジティブな変化も見えはじめています。

一方で、「自信度」については横ばい。特に「最新テクノロジーに対する自信」や「昇進・異動の機会」についてはやや後退との結果もありました。このあたり、日本の職場を見ていると、なんとなく実感とつながるところがある気がします。

組織の中で「上司は信頼できるようになった」と思っていても、「これからの時代に通用する自分でいられるか」と問われると、急に不安になる。目の前の安心感と、未来への確信との間に、どうしても温度差がある。そんな感じです。

調査では、AIなどの技術革新が進む中でも「企業変革の中心は人である」と強調されています。

社員が求めているのは、給与だけではなく、「柔軟性」「人間的なつながり」「成長機会」など、“仕事を超えた価値”だと。この指摘には大きくうなずかされるものがあります。結局のところ、人は「自分が大事にされている」と感じられないと、どんなに条件が良くても幸せにはなれない。

ただ、日本のウェルビーイング指数が上がらないのには、もっと根深い理由があるようです。

高齢化や人口減少のスピードは世界でも例を見ないほどで、社会保障労働人口へのプレッシャーが強く、将来への不安が常にまとわりついています。さらに、長時間労働や、ワークライフバランスの取りづらさ。

OECDの調査でも、日本は「市民参画」や「バランス」の項目で最低水準。要するに、働きすぎで生活や社会との接点が薄いということ。

それに加えて、組織文化の問題も大きい。年功序列権威主義、責任回避──このあたりは根深く、特に若い世代にとっては「はたらく幸せ」を実感しにくい背景になっている。

学び直しや自己啓発をしようにも、時間もエネルギーも奪われて、結局あきらめてしまう人も多いのではないでしょうか。

日本では「ウェルビーイング」と聞くと、どうしても「主観的な満足度」や「幸福感」だけが取り上げられがちです。でも、海外ではもっと多元的な概念として扱われています。

身体的・精神的健康、経済的安定、社会参加、自己実現。これらすべてが絡み合ってこそ、「よく生きる」ことが可能になる。

日本の議論には、まだその全体像が欠けているように思います。

そう考えると、「ウェルビーイングを高めよう」と声高に叫ぶだけでは足りません。それを支える仕組み、文化、価値観のアップデートが必要。

企業や職場の在り方、働き方の柔軟性、支援のあり方、コミュニティとのつながり──そういった“土壌づくり”のような視点がもっと必要なんだと思います。

個人レベルでも、日々の生活や仕事の中で、「自分にとってのウェルビーイングって何だろう?」と問い直してみることが、ひとつのきっかけになるかもしれません。

安心感? 成長実感? 人とのつながり? 答えは一人ひとり違うとしても、まずは“自分の軸”を見つけることが、変化への出発点になるはずです。